「キレイ」は生きる力になる。メイクや整容の力で、自分らしく生きる手助けを

みなさんは「メイクセラピー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

「メイクセラピー」とは、お化粧を通して患者さんの心のケアを行い、自己表現できる環境を作りながら笑顔を引き出すことを目指すお仕事です。

今回は、自身の事業を広げるために遠距離介護支援協会への所属を決意されたという、メイクセラピストの大平 智祉緒(おおひら ちしお)さんにお話をお聞きしました。

看護学生がマニキュアを塗る姿に衝撃を受けた

ーーメイクセラピストになるまでの経歴を教えてください

私は両親が共働きの家庭に生まれました。医療に携わりたいと思ったのは幼稚園の頃からです。漠然とした医療への思いが強くなったのは中学3年生の頃、癌で父親が亡くなったことがきっかけでした。

その際、父親に対して、亡くなる前に感謝の思いを伝えられなかったことを後悔したため、看護の中でも大切な人が亡くなる際に後悔が残らないような環境を作りたいという思いからターミナルケアに携わる看護師を志望しました。

学生時代はグリーフケアの活動などに参加し、卒業後は看護師として、大学病院の中でも高齢者の多い病院で働いていました。その際に、看護の実習生が「メイクセラピーで患者さんにマニキュアをつけます」という看護計画を立ててきたんです。

当時、私はメイクセラピーに医学的根拠はないと考えていたので、「医療の現場でマニキュアなんて大丈夫?」と疑問に思っていましたが、施術後の患者さんの笑顔を見て考えが変わりました。今までは、患者さんに対してメイクをするという考えは持っていませんでしたが、実際に耳を傾けてみると入院する以前は、メイクにこだわっていた患者さんも多く、亡くなる際も産毛を剃るなど、身なりを整えてほしいという周囲の意見もあり、メイクを含め整容の重要性に気づくことになりました。看護師として現場に出ている一方で、患者さんの外見がその人の社会性やあり方を表すと気付いたからこそ、メイクセラピーを勉強することに決めました。

「感謝で溢れる最期の時」を目指して

ーー普段のお仕事の様子を教えてください

現在は、美容・整容を通して患者さんの心のケアを行い、内面にある輝きを引き出すことを目指して、介護施設と提携して看護美容ケアを提供しています。提携先の介護施設に定期的に訪問し、弊社のサービスを利用されている患者さんに対してケアを行うというものです。

ケアは1:1で行うことを重視しており、メイク指導やネイルケア等をしながら患者さんと対話を深めることも重要な過程の一つになっています。月額制を導入しているのは、メイクセラピーの性質上、定期的に実践することでより高い効果を得るためで、継続的な関係を患者さんとの間に生み出すことが目的の一つにあるからです。

施術は対話をしながら行いますが、この時、肌に触れて状態を確認しながら、まずは顔のマッサージをしていきます。血行が良くなるので、これだけでも患者さんの顔に変化が現れるんです。その後、ご本人と一緒に化粧を施しますが、あくまでもナチュラルメイクを心がけて、日常に近い状態を目指していきます。

ーー事業を行う上で難しいと感じる点はありますか?

メイクセラピーがどのようなものかを伝える際に、語弊が生まれてしまうことが難しいと感じています。私の行っている施術は美容ではなく患者さんの心理的・社会的ケアを第一に目指しているものですが、メイクと聞くと美容のイメージが強く、本来ツールであるはずのメイクが主な活動目的であると捉えられてしまいます。

そのため、イメージを変えるためにもサービスの名前を変更することにしました。元々は「Nursling&Beauty care」というサービス名称でしたが、ケアリングを通じて本来の輝きを取り戻した患者さんの周りに人との縁が生まれ、円環のような状態になることからサービス名を「Rings  Care™️」へと変更しました。あくまで、患者さん自身の自尊心を引き出していくことがこのケアの主な目的であると考えています。

ーー白い制服を用いていますが、これにはどのような意味があるのでしょうか?

日常性を失わないためのユニフォームとしての意味合いが強いです。Rings Careで提供する“キレイ”は日常の中に溶け込むナチュラルなものを目指しています。そのため、変化が少なく安定感のある環境が必要です。そこで、ケアに通っている現場の介護施設に溶け込む服装を考えた結果、現在のような白い制服にたどり着きました。患者さんへの影響を考慮した結果です。

遠距離介護支援協会に対する期待と魅力

ーー実際に加入されてみて、いかがでしたか。

 現状は、事業を行う際の保険の相談などを行っただけですが、連絡がこまめで情報量が多い点はとても感謝しています。協会に所属する人とSNS上でやりとりすることもあり、講座やセミナーの誘いに参加することもできる点はとても魅力的だと思います。

また、事業を行う際の知識を得られたこともとても大きいメリットでした。私は、看護の現場には精通していたものの、経営や一般社会の知識に対して情報量が多くはなかったのですが、協会に入ったことでアドバイスをもらいながら少しずつ、知識を得られていると思います。

ーー今後はどのようなことに挑戦していきたいですか?

現状、まだRings Care™️ができるのは私だけなので、まずは実際に施術を行うことのできるセラピストを増やしていきたいです。今後、事業を拡大しても、患者さんと1:1で話す形は重要視しているため、人材を育成することで個別のケアも継続していこうと思っています。人材を増やす方法としては、介護施設での研修を検討しており、施設の職員を教育することで、施設全体にそれが波及していくと良いな、と思います。

また、看護学校へ講師として赴き、看護の中での整容の重要性や美容を通じたケアリングの啓発活動にも努めていきたいです。

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大平さんは笑顔の溢れるとても素敵な女性であり、この方にケアしていただけると患者の方にも笑顔が広がることが容易に想像できました。取材を終えて、「ここまで事業に対して打ち込める理由は何か」とお聞きしたところ、笑顔になった患者さんから、「あなたは素敵な仕事に携わっている」と言われたことで、この仕事こそ本来目指していた看護であると感じたからです、とおっしゃっていました。

「人を看取る」という行為には悲しいイメージが強いですが、「患者さんが亡くなった際の後悔を無くしたい」と願う大平さんのように、明るく楽しいケアの形をつくっていけたら良いと思います。

遠距離介護支援協会は、今、そして未来に必要な「家族だけに頼らない介護」の形。“遠距離介護”の最前線を学び、考え、実践するコミュニティです。「届けたい看護」「受けたい介護」の在り方を一緒に考えてみませんか?