お互いが笑顔になれるケアを。子どもから高齢者まで、つながりあう居場所をめざして

ライフスタイルが変化し、多様化する介護のあり方。それぞれの家族の形に合わせた支援、そして援助者自身も納得できるケアを実践するにはどうしたらいいのでしょう?

看護師として保険外介護サービスに携わる竹下 京子さんにお話をお聞きしました。

生まれる時と死ぬ時
人生で一番大事な時に「私を選んでくださった」

ーー看護や介護の現場で、普段はどのような活動をされていますか?

こども急病センターでは診察介助を、そして遠距離介護をサポートする「わたしの看護師さん」で施設に入所されている高齢の女性の看護をしています。

ーーどのような気持ちをもって看護を続けてこられましたか?

看護学校に入って実習などに取り組む中で、この仕事しかない、天職を見つけたと感じるようになりました。

何度か看護師をやめようと思ったこともありました。でも続けようと決意させてくれたのは、病棟勤務をしていた時の患者さんとの出会いでした。どんどん病状が悪くなっていったんですけど、私が来るのを待つようにして亡くなられたんです。ご家族が「待ってたのよ」と言ってくださって、私が「来ましたよ」と伝えると、患者さんが私の手を握って、すっと逝かれたんです。人が亡くなるときのタイミングや不思議な出来事が起きることに、なんとも言えない気持ちになりました。

その後いろいろな経験を積み、救急外来に勤めました。老人施設から心肺停止の方が来られることが何度もあり、見ず知らずの方が私を選んで最期を迎えられました。

生まれる時と死ぬ時は、人生で一番大事な時だと思っています。一人でエンゼルケアをしていると、最初にお話しした患者さんのことも思い出しました。死という大事な時に「私を選んでくださっている」という感覚が今の私を作っています。

人生の最後はハッピーエンドに
そのときそのとき、ひとりひとりに寄り添う看護を

ーー保険外介護サービスに関心を持ったきっかけを教えていただけますか?

救急外来なので、本当に短い時間しかケアすることができません。その方を知っていたら、もっと違う送り方ができたのではないかと考えるようになって、すぱっと救急外来をやめて訪問看護に行くようになりました。

訪問看護サービスに立ち上げから参加し、看取りを行いました。在宅医療は、とても良いなと思います。ご家族に感謝しながら亡くなられた方は、死後の処置をした時もずっと笑顔なんですね。苦しくなく、笑顔で亡くなられているのを見て、看取りというのはとても私には合っていると思いました。

ですが、介護保険内の訪問看護は1時間と短いんですね。決まった時間に行って、決められたことしかできないので、もうちょっとできることがあるんじゃないかという気持ちになりました。

その頃、「21時から翌朝の9時まで夜間の保険外訪問看護に入りませんか」というお話が来ました。看護をさせていただくと、決められた時間ではできないこと、毎日違う出来事があったんです。

腰が痛くなる時間って、決まっていませんよね。痛くなったその時に、腰をさすると、すごく気持ちよさそうにされて、これは薬では治せないものだなと思いました。

足が腫れていたら、さするだけですーっと腫れが引くんですよ。すごいなと思います。手の力というのをすごく感じます。

12時間、寝ないで看護をして、テレビを見ながらときどきお話ししたり、寝られたかなと思うとすーっと目を開けて、こっちを見て、にこっと笑われたりもします。「そばにいますよ」という、何とも言えない、いい雰囲気をお互いが作り出します。

そして朝を迎えたら、「おはようございます」と声をかけて、顔をふきます。今日も無事に朝を迎えられてよかったと感じながら。

その時、その時に合わせてケアすることが、必要な看護なんだなと実感しました。

ーー遠距離介護支援協会とはどのように出会われましたか?

保険外の訪問看護が私には合うと感じながらも保険内の訪問看護を続け、看取りは好きなので、関わっていました。でもやっぱり何かが違うと感じていました。

その時期に友達から、「すごい人がいるからつながる?」と遠距離介護支援協会の神戸貴子さんを紹介してもらいました。

施設に入所されている90代の女性の訪問看護を依頼され、以来、保険外の介護に携わっています。最初は4時間だった利用時間が6時間に延び、利用者さんにも気に入ってもらっています。

その方の笑顔がすごくチャーミングでかわいいんですよね。そばにいるとこちらも力をもらっている感じがします。昔の話をきかせていただくこともあり、そういう関係性がすごくいいなと思ってます。これは保険内ではできないことです。ケアだけじゃなくて、プラスになることがとても多いですね。

ーー介護保険内サービスと保険外サービスを比較すると、どんな違いがありますか?

保険内の1時間では、決められたケアをするだけで終わってしまうので、ゆっくりお話を聞く時間がないんですね。次の訪問看護に行くのに遅れてしまうので、看護している側も焦ります。もっと話したいと思っていらっしゃるのに、「ごめんなさいね」と言って止めなきゃいけないんです。

「ちょっと違う」という違和感を持ちながら、保険内の訪問看護をされている方も多いと思います。保険内だと毎回、看護計画にそった同じようなケアをしますが、利用者さんの状態は日によって違うので、ひとりひとりに合わせた対応ができるのは保険外サービスじゃないかなと思います。

「病気をみるのではなくて、人をみる」ことができるんです。決まったケアをするのではなく、その方の状態に合わせたケア、支援者のやりたい看護ができます。利用者さんと一緒に本当に楽しみながら一日を送っています。

ーーケアを「楽しみながら」という言葉が印象的ですね。

人とのつながりが好きで、相手が笑ってくれるとすごく嬉しくなります。腫れている方の足をさすると、腫れが引いた瞬間に、触ってるだけで幸せホルモンが出ている気がします。利用者さんからも幸せをすごくもらっていて、お互いにセロトニンが出るという感じですね。

利用者さんには先入観を持たず、自分の目で見て判断して接しています。周りの人から「こんな方だから気を付けて」とか「しんどかったらずっと付いてなくていいから」と聞いていても、実際に利用者さんと接してみると「えっ全然、かわいいけど」と思ったり。

ーー訪問看護で看取りをすることもあるとお聞きしましたが、看取りをして悲しくなることもありますか?

ないですね。看取りは、亡くなられている利用者さんや家族の方が中心なので、私はその後押しをさせていただいています。

ご家族と利用者さんの関係が良くなって、エンゼルケアをした後も笑っているように亡くなられている方に対しては、「ご苦労様でした。楽しい最後で、本当に良かったですね」という思いです。だから悲しいとは思いません。最期を笑顔でいい感じで逝ってもらえたら、死ぬのは全然怖くないんです。

私がしたいのは、悲しいのではなく、人生の最後をハッピーエンドで送り出す看取りです。

いつでもSOSを
世代を超えた居場所を作る

ーー子どもや保護者へのケアにも関心を持たれている竹下さん。今後の展開についてお聞かせください。

「子ども支援事業・世代を超えた居場所づくり」を始めようと考えています。私自身の3つの経験を活かして、お母さんたちに安心した居場所を作っていきたいですね。私は、シングルで4人の子どもを育てました。そして障がいを持つひとりの子の親であり、看護師でもあるんです。

「急病のときはこんなことをしたらいいですよ」と電話でいつでもつながりを持てるようにしたり、遊びに来てもらって、育児の相談をしてもらったり、何でも相談できるような居場所にしたいですね。

核家族の子どもたちは、遠くに暮らしているおじいちゃんやおばあちゃんとなかなか会えず、世代を超えたつながりと離れ気味です。

近くに暮らす高齢者とふれ合って、昔の遊びやいろいろな話をして、和やかな雰囲気になってもらうと、子育て中のお母さんたちも気持ちに余裕ができるんじゃないかなと感じています。昔ながらの「こんなふうにしたらいいんだよ」などアドバイスを聞くこともできます。

高齢者とお子さんとのふれ合いは介護にもつながると思っています。近くにおじいちゃんやおばあちゃんがいないお子さんも、いざというときに介護ができるように普段から高齢の方と接してもらえたらと。

ーー人と人とのつながりが、助け合うことに発展するんですね。

障がいを持つ子を育てることや、シングルで子どもを育てるのは大変なんですけど、私は周りの方にすごく助けてもらったんですね。そのありがたさ、人間の温かさを今まですごく感じてきました。

どんどんSOSを出すことで助けてもらえたので、お母さんたちにもいつでもSOSを出せる環境をつくって、安心してもらいたいという気持ちでいます。お母さんが笑うと子どもが幸せになるので。

そういう気持ちにさせてくれたのは息子がいろいろと教えてくれたからです。子どもに障がいがなければ、普通に病院勤務を続けていたと思います。

SOSを出すことの大切さや、周りには本当にいい人や頼れる人たちがいっぱいいることをどんどん知ってもらいたいですね。人間の愛を知って、つながりを持ってもらいたいなと思っています。

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つねに笑顔をたやさず、和やかにお話ししてくださる竹下さん。豊富な経験に基づく言葉は希望にあふれていました。

ケアされる人も、ケアする人もお互いに幸せを感じ、笑顔で助け合う未来のケアへーーー。

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